金融市場のデータインフラとして世界的に知られるLSEG(London Stock Exchange Group)が、Claude Coworkのパートナープラグインとして登場しました。2026年2月24日にAnthropicの金融サービス向けプラグインリリースと同時に発表されたこのプラグインは、ライブイールドカーブ・債券リファレンスデータ・FXスポットレート・スワップ価格・ボラティリティサーフェス・ヒストリカルタイムシリーズ・リアルタイムニュースという機関投資家グレードのデータを、Claudeの金融解析ワークフローに直接接続します。
「Claudeがオーケストレーションを担い、LSEGがコンテンツを提供する」——このシンプルな役割分担が、アナリスト・ポートフォリオマネージャー・トレーダー・ストラテジストのワークフローを根本から変えます。本記事ではスキル・コネクタ(MCP)・スラッシュコマンド・サブエージェントの4要素に分けて詳しく解説します。
LSEGプラグインとは
LSEGプラグインは、金融プロフェッショナルがClaude Cowork上でLSEGの市場データと分析ツールに直接アクセスできるようにするAnthropicVerifiedのパートナープラグインです。DCFモデルの構築、モーニングノートの作成、ポートフォリオのリバランス、案件のファイナンス分析——これらすべてを実際の市場データに基づいて実行できます。
重要な特徴は、LSEGのMCPサーバーが10の専門化されたデータツールへのアクセスを提供することです。Claudeの金融スキルは、どのAPIを呼ぶかを自動的に判断し、リクエストをフォーマットし、返ってきたデータを解析ワークフローに組み込みます。ユーザーはAPIの仕様を知る必要はなく、プロンプトで分析目的を伝えるだけです。
1. スキル(Skills)— 資産クラス別の8つの金融ワークフロー
LSEGプラグインのスキルは、固定収益・FX・エクイティ・デリバティブの主要資産クラスをカバーします。
【エクイティ分析】Morning Note(モーニングノート)
LSEGのNEPニュースサービスからカバレッジ銘柄のライブニュースヘッドラインを取得し、QAツールで前日の終値・直近リターンを確認し、TSCCヒストリカルタイムシリーズで短期価格推移をチャート化します。トレーディングデスクが市場開始前に必要とする時間的制約のあるモーニングブリーフを、通常1時間かかる作業から数分で作成します。
【財務分析】DCF Model Builder(DCFモデル構築)
フリーキャッシュフロー予測・WACC計算・感度分析・プロフェッショナルなExcelモデル出力まで、完全なDCFバリュエーションワークフローを実行します。Curvesツールから現在の国債イールドカーブを取得してリスクフリーレートを設定し、QAツールで株価とベータを取得してエクイティコストを計算します。モデルの市場インプットは常に最新であり、各数値はLSEGソースまでトレースできる監査証跡が確保されます。
【エクイティ分析】Initiating Coverage(新規カバレッジ開始)
新規カバレッジ開始は株式リサーチで最もデータ集約的な作業の一つです。このスキルは「リサーチ→財務モデリング→バリュエーション→チャート生成→レポートアセンブリ」の5フェーズで構造化されています。QAツールで過去の株価・トータルリターン・ベータを取得し、TSCCで詳細タイムシリーズをチャート化し、LSEGニュースで最新ヘッドラインを確認し、VolSurf(SABRモデル)で市場のインプライドボラティリティサーフェスを生成します。
【プライベートエクイティ】IC Memo(投資委員会メモ)
プライベートエクイティのデューデリジェンス・財務分析・案件条件を投資委員会への推奨書として統合します。Curvesツールで現在の国債イールドカーブを取得し、Swapsツールで関連テナーの金利スワップを価格付けし、提案されたデット構造の実際のパーレートとDV01メトリクスを計算します。YieldBookで比較可能な債券のリファレンスデータを取得してファイナンス条件をベンチマークします。
【ウェルスマネジメント】Portfolio Rebalance(ポートフォリオリバランス)
クライアントポートフォリオのアロケーションドリフトを分析し、ウォッシュセールルールとロットレベルの税務コンシーケンスを考慮した税効率的なトレード推奨を生成します。QAで現在の株式バリュエーション、Curvesで最新イールドカーブ(固定収益)、FXでリアルタイムスポットレート(海外エクスポージャー)、TSCCでヒストリカルタイムシリーズを取得し、すべての資産クラスと地域で現在の市場価格に基づくリバランスを実現します。
【固定収益】Bond Relative Value / Swap Curve Strategy / Bond Futures Basis / Portfolio Review
固定収益・レート分野では4つのスキルが提供されています。Bond Relative Valueは債券を価格付けしGスプレッド・クレジットスプレッド・残差に分解してレートシナリオでストレステストを実行します。Swap Curve Strategyは国債・インフレーションオーバーレイを含むスワップカーブを構築し2s10sスロープ等のカーブメトリクスを計算します。Bond Futures BasisはCTD(最安価引渡債)を特定しグロス・ネットベーシスを計算します。Portfolio Reviewは債券ポートフォリオ全体の価格付け・リスクメトリクス集計・キャッシュフロー予測・シナリオ分析を一括実行します。
【FX・マクロ / エクイティ・デリバティブ】
FX Carry Tradeはスポット・フォワードカーブでキャリー機会を評価し、ボラティリティスキューでリスクシグナルを確認します。Macro & Rates Dashboardは主要経済圏の経済指標・イールドカーブ形状・実質金利分解・金融環境をモニタリングします。Equity ResearchはIBESコンセンサス推計・過去ファンダメンタルズ・価格パフォーマンス・マクロコンテキストを統合した投資テーゼを生成します。Option Volatilityはボラティリティサーフェスを分析し特定オプションをフルGreeksで価格付けし、インプライドvs.リアライズドボラティリティ比較でトレード機会を特定します。
2. コネクタ(MCP)— LSEGの10の専門データツール
LSEGのMCPサーバーはClaude Coworkに10の専門化されたデータツールへのアクセスを提供します。
- QA(クォンテーション & アナリティクス):株価・リターン・ベータ係数のリアルタイム取得。エクイティ分析・バリュエーションの基礎データ
- TSCC(タイムシリーズ & クロスカレンシー):ヒストリカル価格タイムシリーズ。価格トレンドのチャート化・テクニカル分析・成長率仮定の根拠
- Curves(イールドカーブ):政府国債・インフレーションオーバーレイを含むイールドカーブ。DCFモデルのリスクフリーレート設定に使用
- Swaps(金利スワップ):金利スワップの価格付け・パーレート・DV01メトリクス。ファイナンス構造のモデリングに必須
- FX(外国為替):リアルタイムFXスポットレート。国際エクスポージャーを持つポートフォリオのリバランスや案件評価に使用
- VolSurf(ボラティリティサーフェス):SABRモデルによるインプライドボラティリティサーフェス。オプション価格付け・リスク評価に活用
- YieldBook(債券リファレンスデータ):格付け・クーポン・満期プロファイルを含む債券リファレンスデータ。ファイナンス条件のベンチマーク
- Bond(債券先物):債券先物の価格付け。ヘッジ構造の評価に使用
- News(NEP ニュースサービス):RICコードでフィルタリングされたリアルタイムニュースヘッドライン。モーニングノートや投資テーゼ更新に活用
- Historical Time Series:長期価格・リターン・ファンダメンタルズデータ。トレンド分析・バックテストの基盤
利用にはアクティブなLSEGデータエンタイトルメント(既存のサブスクリプション)とLSEG MCPサーバーへのアクセス認証情報が必要です。設定後、Claudeのスキルは各ワークフローに適切なLSEGツールを自動的に選択して呼び出します。
3. スラッシュコマンド(Slash Commands)— 即時ワークフロー起動
スラッシュコマンドはClaude Coworkのチャット欄で「/」を入力することで呼び出せるショートカット型コマンドです。LSEGプラグインの各スキルに対応したコマンドが利用可能です。
- /lseg:morning-note:カバレッジRICリストを指定して、リアルタイムニュース・前日終値・価格推移を含むモーニングノートを生成
- /lseg:dcf-model:企業名またはティッカーを指定して、ライブ市場データに基づくDCFバリュエーションモデルをExcel形式で出力
- /lseg:initiating-coverage:対象銘柄を指定して、5フェーズの包括的カバレッジ開始レポートを作成
- /lseg:ic-memo:案件概要を入力して、実際のファイナンスエコノミクスに基づく投資委員会メモを作成
- /lseg:portfolio-rebalance:ポートフォリオ情報を入力して、クロスアセット・税効率を考慮したリバランス推奨を生成
- /lseg:bond-relative-value:債券のISINまたはRICを指定して相対的バリュー分析を実行
- /lseg:fx-carry-trade:通貨ペアと期間を指定してキャリートレード機会を評価
- /lseg:option-volatility:原資産と満期を指定してボラティリティサーフェスを分析しオプションをフルGreeksで価格付け
4. サブエージェント(Sub-agents)— 資産クラス別の専門金融AIチーム
サブエージェントは複雑な金融タスクを資産クラスと分析領域ごとに分担して並行処理する専門AIです。LSEGプラグインでは以下のサブエージェントが協調して動作します。
Equity Research Agent(エクイティリサーチエージェント)
株式調査に特化したエージェントで、モーニングノート・新規カバレッジレポート・エクイティリサーチスナップショットを担当します。IBESコンセンサス推計・過去ファンダメンタルズ・株価パフォーマンス・マクロコンテキストを横断的に参照し、投資テーゼを構築します。LSEGのQA・TSCC・News・VolSurfツールと連携します。
Fixed Income Agent(固定収益エージェント)
債券・金利・スワップ分析を専門とするエージェントです。Bond Relative Value・Swap Curve Strategy・Bond Futures Basis・Portfolio Reviewの各スキルを実行し、LSEGのCurves・Swaps・YieldBook・Bondツールを組み合わせて機関投資家グレードの固定収益分析を提供します。
Portfolio Management Agent(ポートフォリオマネジメントエージェント)
クロスアセットのポートフォリオ管理を担当するエージェントです。エクイティ・固定収益・FXの現在価格を使ってアロケーションドリフトを計算し、税効率を考慮したリバランス推奨を生成します。QA・Curves・FX・TSCCの全ツールを横断的に活用します。
Private Equity Agent(プライベートエクイティエージェント)
PE案件のバリュエーションとファイナンス分析を担当するエージェントです。DCFモデル構築とIC Memoの作成を行い、ライブ市場データに基づくデット構造分析・WACC計算・感度分析を提供します。YieldBook・Curves・Swaps・Bondツールと連携します。
FX & Macro Agent(FX・マクロエージェント)
外国為替とマクロ経済分析を専門とするエージェントです。キャリートレード機会の評価・主要経済圏のマクロダッシュボード生成・実質金利分解・金融環境モニタリングを担当します。LSEGのFX・Curvesツールを主に使用します。
「LSEGのデータ × Claudeのスキル」が生み出す新しい金融ワークフロー
LSEGのEmily Prince(Group Head of Analytics & Group AI)は発表記事でこう述べています。「スキルが構造をもたらし、LSEGがコンテンツをもたらす。この組み合わせが、金融プロフェッショナルをデータ収集作業から解放し、そのデータが本来知らせるべき判断に集中させる」。
LSEGのMCPサーバーは、機関投資家が依存してきた金融データインフラをClaude Coworkに直接接続します。DCFモデルのリスクフリーレートが昨日のデータではなく今日のイールドカーブから計算され、IC Memoのファイナンス条件が前四半期の推計ではなく現在の市場価格を反映し、モーニングノートが手作業1時間ではなく数分で完成する——これがLSEGプラグインが実現する変化です。
LSEGプラグインの詳細はclaude.com/plugins/lsegおよびLSEGの公式解説記事「Supercharge Claude’s Financial Skills With LSEG Data」で確認できます。

